
中国投資が加速するメキシコの新戦略
中国がメキシコでの投資を拡大している。2025年現在、メキシコには1,000社を超える中国企業が正式に登録されており、実際には4,000〜5,000社が活動していると見られる。背景には、米国による関税政策や世界的な貿易の分断を受け、中国企業が「関税回避」を戦略の中心に据えた投資を進めている事情がある。
メキシコは地理的に米国市場へ直結しており、50を超える自由貿易協定を持つ。このため、企業は製造拠点をメキシコに置くことで、安定した市場アクセスとコスト競争力を確保できると判断している。
経済委員会(Comisión Económica para América Latina y el Caribe:ラテンアメリカ・カリブ経済委員会、CEPAL)のJosé Manuel Salazar Xirinachs事務局長は、「米国を中心に世界貿易が再編される中、戦略は多角化である」と指摘している。
メキシコの産業基盤と中国企業の視点
CEPALのSalazar Xirinachs事務局長によれば、メキシコには航空宇宙、医療機器、ソフトウェアなど先端産業の強力なクラスターが存在する。これが投資を呼び込む好循環を形成しているという。
一方で、Cámara de Comercio y Tecnología México – China(メキシコ中国商工技術会議所)の広報責任者Diana Gamboa氏は、「10年前、メキシコは米国市場に入るための単なる組立拠点と見なされていたが、今では長期的な戦略拠点と位置付けられている」と述べた。
さらに、メキシコの地理的優位性や安定したマクロ経済環境、競争力あるコスト、若く熟練した労働力が中国企業を引き寄せていると指摘。特に現在の「貿易分断」が中国企業の投資戦略を再定義しているという。
米国の懸念と政治的リスク
一方、Integralia社の公共政策担当マネージャー、Alberto Quiroz氏は、米国が中国製品の「迂回輸出」を警戒している点を強調した。米墨間の自由貿易協定T-MEC(Tratado entre México, Estados Unidos y Canadá)の再交渉を控える今、米国の目を意識する必要があるという。
Quiroz氏は「生産的な投資は出所を問わず歓迎される一方で、米国からの不信を招くリスクは無視できない」と述べた。Finamex Casa de Bolsaのチーフエコノミスト、Víctor Gómez Ayala氏も「輸出先としての米国依存が依然として支配的」とし、アジア市場への進出には時期尚早との見解を示している。
このように、中国からの投資は経済的メリットを提供する一方、米国との関係悪化を避けるという政治的課題も伴っている。
進出する中国企業とBYDの動向
Gamboa氏は、Hisense、Minth Group、Huawei、Kuka Home、Hangzhou XZB、JAC Motors、Changan、ICBC、Honghua Groupなど多くの企業がメキシコ市場を「輸出拠点」ではなく「戦略市場」として捉えていると述べた。
特に注目されるのは電気自動車大手BYDである。同社のメキシコ展開について「中止ではなく、段階的な拡大戦略を採用している」と説明した。過去には2012年、Quintana Roo州においてDragon Martが中国企業の大規模拠点として計画されたが、政府・地域社会・企業の調整不足により実現しなかった事例がある。
Gamboa氏はこれを「大規模プロジェクトが成功するには、地域社会、政府、企業の完全な協調が必要であることを示す」と述べた。
メキシコの今後の展望と課題
メキシコは引き続き中国企業にとって重要な投資先であり続ける見通しだ。しかし、その成否は米国との政治的関係、T-MEC再交渉の行方、地域社会の受け入れ体制に大きく左右される。
中国企業が狙うのは単なる米国市場へのアクセスだけでなく、メキシコを足掛かりとしたグローバル市場での競争力強化である。結果として、メキシコは地政学的・経済的に一層重要な拠点として位置付けられている。

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