
Index ➖
Ley de Obras改正でtransparenciaに逆行する懸念も
2025年5月21日、メキシコ議会はLey de Obras Públicas y Servicios Relacionados con las Mismas(公共事業および関連サービス法)の改正案を可決し、建設業界にとっての法的枠組みが大きく書き換えられた。効率性の向上が期待される一方で、透明性(transparencia)に関する後退や軍関与の拡大が批判の的となっている。
軍の例外措置が透明性の空白を拡大
今回の法改正の中でも最も議論を呼んでいるのが、Secretaría de la Defensa Nacional(国防省)の関与する公共事業に対する例外措置である。新法第1条では、「国家戦略的プロジェクト」とされた軍の建設事業に対して、一般的な入札手続きを免除する内容が盛り込まれた。
これは、すでに2019年から2022年の間に1910億ペソ超の契約を軍に割り当てていた政府の方針を、法的に追認するものである(出典:México Evalúa)。具体的には、Tren Mayaの建設や、Banco del Bienestarの支店建設など、軍が主導して進めている大規模インフラが対象とされる。
México EvalúaのMariana Campos代表は「一般の入札に対する透明性が強化される一方で、軍に関しては完全に閉鎖的な運用が温存される」と指摘する。この軍事例外は、従来のdecretos de seguridad nacional(国家安全保障に関する大統領令)で行われてきた非公開プロセスを、法制度の中に恒久的に組み込む結果となる。
デジタル化による効率化と監視の二面性
改正法では、従来のCompraNetに代わる新しい電子調達システムの整備が義務付けられ、手続きのデジタル化が大きな前進として評価されている。第74条では、「契約手続きはすべて電子的に行われ、プラットフォーム上で公開される」と定められた。
Universidad IberoamericanaのVíctor Antonio López教授は、「企業の専門性や技術的特徴が国のレジストリに登録されることで、契約の公正性とスピードが向上する」と説明する。電子契約の導入により、文書改ざんのリスクが減少し、法的な拘束力も担保されるようになる。
しかし、法案には未だ技術的課題が残る。政府はこのシステムの完全な実装に向けて30か月の準備期間を設けており、その間は旧システムと並行運用される。Mariana Campos氏は「CompraNetの廃止は新システムの安定運用が確認されてからであるべきだ」と警鐘を鳴らす。
公開義務の縮小で市民監視の範囲が後退
改正法の中でtransparenciaに関わるもう一つの問題は、公開が義務づけられる文書の範囲が縮小されたことである。たとえば、技術的、経済的、環境的なestudios de factibilidad(実現可能性調査)は公開対象から外された。
さらに、市民監視を行うtestigos sociales(社会的証人)の関与が求められる公共事業の金額基準が、以前の10万UMA(約1,130万ペソ)から23万UMA(約2,600万ペソ)へと大幅に引き上げられた。この変更により、地方や中小規模のプロジェクトが監視対象から外れる懸念がある。
これに対し、Colegio de Ingenieros Civiles de México(CICM:メキシコ土木技師会)のMauricio Jessurun氏は、「市民社会が担う透明性の役割を軽視する動きであり、地元住民にとって重大な影響を及ぼす可能性がある」と警告している。
監督責任の強化と技術職の専門化
改正法は、工事監督の責任を強化し、responsabilidad solidaria(連帯責任)を新たに導入した。これにより、建設の瑕疵を見落とした場合、監督企業も施工会社と同様に責任を負うことになる。
また、Bitácora Electrónica de Obra(電子工事記録)の使用が義務化され、リアルタイムでの工程記録が可能となる。これにより、いわゆる「盲目の時間(tiempos ciegos)」が解消され、監督体制の信頼性が高まるとされている。
これらの制度強化により、現場の責任者にはより高度な専門知識と技術が求められるようになる。
直接契約の上限引き下げと例外要件の明確化
従来の法制度では、政府が事実上の裁量でadjudicación directa(直接契約)を用いることができたが、今回の改正ではその予算上限が総予算の30%から20%に引き下げられた。
また、直接契約に至るまでの手順が初めて明文化され、見積もり依頼から契約通知に至るまでのプロセスが厳格に定義された。政府機関が例外措置を承認する場合、director general(局長級)以上の職位でなければならず、組織内での説明責任も強化された。
ただし、seguridad nacional(国家安全保障)や緊急時対応など、例外の根拠条項は依然として15種類にのぼり、抜け穴が残る構造は解消されていない。
中小企業への配慮と新しい競争方式
新法では、入札で選ばれた企業がobra directa(直接施工)する比率が51%以上と定められ、それ以下の部分は自由に下請けとして外注できるようになった。これにより、地域密着型の中小企業がサプライチェーンに参加しやすくなる。
さらに、oferta subsecuente de descuento(後続割引提案)という新方式が導入され、初期提案後に他社の提示価格を見たうえで再提案が可能になる。これにより、政府はさらなる予算削減を見込むことができる。
HR RatingsのRoberto Ballinez氏は「透明性が保たれる限り、こうした柔軟な競争方式は業界の健全な成長を促す」と評価している。
導入期の課題とインパクトの見通し
今回の改革により、公共事業のプロジェクト選定、契約、監視に関するデータが網羅的に収集・分析可能となる。これは、empresas fantasma(ペーパーカンパニー)や不正契約の摘発にもつながると期待されている。
ただし、制度導入には政府・業界の双方に大きな適応努力が求められる。新プラットフォームの整備、担当者の訓練、予算配分など、実運用には複数の段階を経る必要がある。
建設業界は今後数年、透明性と効率性のバランスを取りながら、新法に適応していくことが求められる。とくに、軍の関与や例外措置の取り扱いをめぐる議論は、制度の実効性を左右する重要な論点となる。

会員でない方は会員登録してください。



Comments