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SHCPが再度Pemex支援の債券発行を決定
メキシコ財務公債省(Secretaría de Hacienda y Crédito Público:以下SHCP)は2025年7月22日、国営石油会社Petróleos Mexicanos(以下Pemex)を支援するため、新たな債券を発行する方針を発表した。これは、同社の短期的な資金需要と経営安定性を支える目的で、SHCPが策定する包括的な財政戦略の一環として実施される措置である。
SHCPが発行するのは「Notas Pre-Capitalizadas(プリキャピタライズド・ノート)」と呼ばれる金融商品であり、これによりPemexは短期的な運転資金や財務義務の履行に必要な資金を確保できるようになる。債券の詳細な条件については公式発表時点で明示されていないものの、SHCPはこの措置がPemexに対する直接的な保証ではないことを強調している。
この措置は、Pemexの財政的圧力が長年続いている状況に対する応急的な支援としての性格を持ち、同時に同社の財務体質改善を後押しするものと位置づけられている。
債券の規模と内容:最大1.7兆ペソの可能性
地元メディアBloombergの報道によれば、今回の債券発行は外国通貨建てで実施され、満期は2030年8月とされている。発行予定の金額は1,190億ペソ(約70億ドル)から1兆7,000億ペソ(約100億ドル)の範囲と見込まれており、非常に大規模な財政支援策となる。
Pemexはこれまでにも過剰債務と流動性不足という問題に直面しており、今回の資金調達はその対応策のひとつとして実施される。SHCPはこの債券発行について「Pemexの流動性改善、債務の満期構造最適化、負債総額および資金調達コストの削減を目的とする包括的な戦略の一部である」と説明している。
この戦略の最終目標は、エネルギー安全保障の強化および国内経済の安定に資することであり、Pemexの役割が国家経済とエネルギー供給にとって不可欠であることを前提にした措置といえる。
Pemexの債務状況と資金調達の必要性
Pemexは現在、世界でも有数の債務を抱える石油企業であり、メキシコ政府の支援なくして資金繰りを維持することは困難な状態が続いている。2025年第1四半期末時点での同社の負債総額は約2兆ペソに達しており、そのうち2,991億ペソについてはすでに債務返済が実施されたとされている。
この返済額は前年比で増加しており、過去数年にわたる累積債務の圧力が依然として続いていることを示している。また、同社はサプライヤーへの支払いにも遅延が生じており、流動性の確保が急務とされている。
今回の債券発行により、Pemexは当面のオペレーションに必要な資金を確保することが可能となる見通しであるが、長期的には財政体質の抜本的な改善策が求められる。
過去2000年以降の政府の財政支援措置
2006年(Vicente Fox)
国会がPemexの新たな財政制度を導入した。以前はメキシコ政府がPemexの総収入の約60%を徴収していたが、新制度では上流・下流部門を分離し、原油生産に対する変動税率(78.7~87.8%)や原油価格22ドル超に対するウインドフォール課税、輸出に対する特別税を導入、精製・流通は通常の法人税率とした。この改革により、Pemexの税負担は軽減され、2006年には総収入の約55%相当の税・義務支払いとなり、2005年の62.5%から大幅に低下した。狙いは、Pemexに投資原資を残し生産維持や開発に充てる余力を与えることであった。
2007年(Felipe Calderón)
Pemexの税負担をさらに軽減する追加措置が講じられた。2007年9月に成立した財政改革により、2008年に約100億米ドル相当の税負担削減が見込まれる仕組みが導入された。これは老朽化油田の増産や深海探査への投資を促すことが目的であり、Calderón政権初期のエネルギー政策の一環であった。
2008年(Felipe Calderón)
エネルギー改革の一環としてPemexの税制をさらに緩和した。通常の原油生産税(営利分配金)を79%から74%に引き下げ、2012年まで毎年0.5ポイントずつ低下させ71.5%まで引き下げる計画とされた。また原油税算定の控除上限を拡大し、Pemexに追加の財務上の柔軟性を与えた。ただし2008年時点でもPemexは収入の約58%相当を政府に納付しており、依然として世界でも最高水準の財政負担を抱えていた。これらの措置は、産油量の減少が続く中でPemexの財務体質を改善し、投資を促進する狙いがあった。
2016年(Enrique Peña Nieto)
原油価格急落による財務悪化を受け、政府はPemexに緊急の流動性支援を行った。2016年4月、計735億ペソ規模の支援策が発表され、その内訳は265億ペソの資本注入と、年金費用拠出のための470億ペソの与信枠提供であった。この資金は滞留していた石油サービス業者への支払いや負債圧縮に充てられ、財務健全性の回復と債務不履行回避のための包括的措置と位置付けられた。
同年には、巨大な年金債務に対処するための支援措置も講じられた。2015年にPemexと労組が年金制度改革で合意したことを受け、政府は2016年8月にPemexの年金債務の一部(約1,340億ペソ相当)を引き受けた。この措置によりPemexのバランスシート上の債務負担は大幅に軽減され、企業の債務超過回避と長期的な財務安定性の確保が図られた。
2019年(Andrés Manuel López Obrador)
新政権は「Pemex救済計画」を打ち出し、総額約1,070億ペソ規模の包括支援を実施した。2019年2月に発表されたこの計画には、250億ペソの直接資本注入、政府がPemexに対して負っていた債務の早期支払い350億ペソ、少なくとも150億ペソの税負担軽減、および燃料盗難対策による財政節減分約320億ペソが含まれた。巨額債務を抱えるPemexの財政負担を和らげ、生産量減少の歯止めと信用格付けの維持を目的とした措置である。
同年9月には、政府が追加支援として約1,000億ペソの資本をPemexに投入した。この資金は社債の繰上返済に充てられ、新たに長期の債券発行による借換えが行われた。信用格付け機関がPemex債の格下げを警告する中での対応であり、市場の信認維持を意図したものである。
2020年(Andrés Manuel López Obrador)
新型コロナによる需要減退と原油暴落を受けて、政府はPemexの利益配分税について約650億ペソ相当の納付免除措置を実施した。非常時における資金繰り支援と信用力維持を目的とした措置である。
2021年(Andrés Manuel López Obrador)
政府はPemexに対し730億ペソ規模の税負担軽減措置を実施した。金融負債が深刻化する中での財政刺激策であり、原油生産維持と信用安定を目的としたものである。
また同年、Pemexの債務返済の一部を政府が直接肩代わりする異例の支援策が実施された。2021年に償還予定であった約64億ドル相当の債務について、政府が全額負担した。Pemexの新規社債発行は停止され、同社の借入拡大を回避する措置であった。併せて利益配分税率も2022年度に40%へ引き下げられた。
2023年(Andrés Manuel López Obrador)
2023年7月、政府はPemexに約700億ペソの資本注入を実施し、迫る債務返済の原資とした。これまでの支援総額は約490億ドル規模に達しており、国有企業としての信用維持が狙いである。
2025年(Claudia Sheinbaum)
2025年7月、政府はPemexの短期債務支援のために「ノータス・プレカピタリサーダス(Notas Pre-Capitalizadas)」と呼ばれる新たな金融債の発行を決定した。正式な額は非公表であるが、報道によれば1.2兆〜1.7兆ペソ相当の発行が検討されている。資金繰り改善と債務償還の期限延長を図る措置である。
SHCPのスタンスと今後の見通し
SHCPのエドガー・アマドール・サモラ長官は、今回の措置は「企業としてのPemexの責任を前提としつつ、国家としての支援の枠内で行われるもの」と強調した。これはPemexの財務自立を促しながらも、国家経済の安定性を優先する方針を示したものである。
また、Pemex支援におけるSHCPの姿勢は2023年以降一貫しており、これまでも税制優遇措置や資本注入などを通じて断続的に支援が行われてきた。今回の債券発行も、その延長線上にある措置と考えられる。
SHCPは同様の措置を2024年にも実施しており、その際は約1兆3,600億ペソ(約80億ドル)規模の債券を市場で発行していた。今回も同等かそれ以上の規模となる可能性が高いが、公式発表では具体的な金額は未定とされている。
Pemexの財務改善に向けた取り組みは今後数年にわたって継続すると見られ、エネルギー部門の国家戦略と密接に関連していることから、政府の関与も継続する見通しである。

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